〈忘れられた領域(フォーゴトン・レルム)〉とは、世界一の会話型ロールプレイング・ゲーム「ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)」の公式世界設定の中でも最大級のものである。『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)をリスペクトする形で誕生したその世界設定は、膨大かつ壮大にして緻密を極めており、多くのユーザーに、「これは、本当に実在する別世界なのではないか?」という幻想を抱かせることに成功している。

D&D は、1974年に初めてこの世に登場して以来、さまざまな人気キャラクターや魔法、アイテム、モンスター、世界設定などを生み出し続けているが、そのなかでももっとも有名で、ユーザーたちにもっとも愛されるキャラクターのひとりであるのが、小説『ダークエルフ物語』などの主人公である、ドリッズト・ドゥアーデンである。

ドリッズドは、今や米国のゲーム小説界ではもっとも才能のある第一人者の一人と言える超人気作家R.A.サルバトーレが、その処女出版小説『アイスウィンド・サーガ』(内容的には、『ダークエルフ物語』の後にくる作品)において主人公として登場させた、悲劇のヒーローである。

ダークエルフ(ドロウとも呼ばれる)とは、〈フォーゴトン・レルム〉の地下世界である〈暗黒世界(アンダーダーク)〉にいくつもの都市を形成して棲んでいる、黒い肌と白くつややかな髪が特徴的なエルフの変種のことである。彼らは生まれながらに敏捷(びんしょう)で、剣技と魔法の才能に恵まれており、都市を美しく造形するすばらしい美的センスの持ち主たちなのだが、その性質は残忍にして凶悪ということで世界中から恐れられている。邪悪な〈蜘蛛(くも)の女王〉ルロス(ロルスと呼ばれることもある)を崇め、彼女の寵愛(ちょうあい)を得るべく、日々、残酷な陰謀や暗い裏切りに思いをめぐらし、分家同士の権力闘争に明け暮れ、無慈悲な虐殺を楽しんでいるのが、彼らの真実なのである。

そして、そうしたダークエルフが棲む地下の巨大都市のひとつ〈メンゾベランザン〉に、たぐいまれな善なる魂をもって生まれてきてしまった異端の存在こそが、ドリッズト・ドゥアーデンなのだ。彼は珍しいラヴェンダー色の瞳を持ち、ダークエルフのなかでも卓越した天才的な剣技(両手に構えたシミターがトレードマークだ)と非常に恵まれた魔法の才能を備えており、地下都市でも若くして一目置かれる存在であったが、周囲のダークエルフたちとは価値観をまったく異にするため、ダークエルフのなかでは完全に孤立し、疎外され、さげすまれる存在でもあった。

彼の生い立ちと葛藤、そしてその成長と痛快な活躍ぶりを描いたのが、アスキーが刊行するD&D小説『ダークエルフ物語』『アイスウィンド・サーガ』『ダークエルフ物語  ドロウの遺産』である。さらにアスキーでは、同じフォーゴトン・レルムを舞台にした、同じ作者による姉妹作『クレリック・サーガ』(僧侶であるカダリーの冒険と葛藤を描く作品)も刊行している。

これらの小説を読み、ぜひ濃密で緊迫感のある異世界体験を読者の皆様に味わっていただきたいと思う。あるいはそれは、「自分は確かに、かつてあそこで、フォーゴトン・レルムに生きていた」という、生涯忘れがたい異世界体験となるかもしれない。

裏切りや残忍さを美徳とする悪の女神〈蜘蛛の女神ルロス〉を崇拝するダークエルフたちが棲む地下都市メンゾベランザンは、その凶悪さと無慈悲さで世界中から恐れられる都市である。
そんな都市に暮らしながら、善なる心を持ってしまった異端者でメンゾベランザン一の剣匠であるザクネイフィンは、心の中で泣きながらその善なる心を誰からも隠し、悪を装って、一族のために残忍な殺戮(さつりく)を日々くり返していた。
ザクネイフィンは、一族の長である邪悪な慈母マリスの愛人を心ならずもつとめさせられており、そしてついにマリスは、ザクネイフィンの子供であるドリッズトを出産する。
父であることを隠しつつ、そして善の心をも隠しつつ、ドリッズトに剣の修行をつけるザクネイフィンは、その我が子に、天才的な剣と魔法の才能があることを見抜き、そして同時に、自分と同じように、ダークエルフとしては類まれなる「善なる優しい心」を持っていることを知り、うれしく思うのであった。
しかし、邪悪を善とするダークエルフ社会で少年ドリッズトは孤独にさいなまれ、家族や友人から日々つらい仕打ちを受け、ついには学園の授業で悪に手を染めてしまう――しかし実はそれは、 学園内で生き抜くための、目くらましだった。
そうとは知らない父ザクネイフィンは、自らの手で、悪に染まってしまった危険な我が息子を殺害しようと決意するが――